神戸地方裁判所 昭和25年(ヨ)153号 決定
申請人 赤松寿一 外十四名
被申請人 和光純薬工業株式会社
一、主 文
本件申請はこれを棄却する。
申請費用は申請人らの負担とする。
二、理 由
本件申請の要旨は、被申請人会社(以下会社という)が昭和二五年五月三日限り申請人らを解雇したのは、申請人らにおいて和光純薬労働組合(以下組合という)の幹部として正当な争議行為をなしたことを理由とするものであるから、労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為として無効であるのにかかわらず、申請人らが被解雇者として取扱はれることは、組合と会社との重大な交渉段階にある今日その所属する組合の団結維持を著しく困難ならしめるから、これをさけるため、従業員としての仮の地位を定めることを求めるというのである。これに対して、会社は、申請人らは、(一)恣に会社の服務規定に違反して会社の業務指揮権を妨害排除し、(二)閉鎖した工場に率先して不法に侵入したものであるから、服務規定第六一条による懲戒解雇に処すべきところ、申請人らに退職手当等の支給を受けさせるため同規定第三八条により解雇したものであるから、右処置には何等不当の廉はない、と主張する。
さて、申請人らが会社の従業員二六五名で組織する前記組合の幹部であるところ、会社が昭和二五年五月一日申請人らに対し同月三日限り解雇する旨の意思表示をなしたことは当事者間に争がない。
そこで右解雇が不当労働行為に該当するか否かについて判断する。本件疎明資料によれば、組合は昭和二五年三月三日会社に対し同年三月より従業員の固定給を一二、〇〇〇円ベースに引上げること、及び厚生資金として金四〇、〇〇〇円を支給することを要求したところ、会社は、昭和二四年五月一〇日の賃金協定によれば賃金を囘収金にスライドして定めることになつており、三月、四月には九、一〇〇円乃至九、四〇〇円となるのみならず、現在の経済事情からすれば賃金ベースの低下も予想されたのであるが、従業員の生活を考慮して、四月分より給料税込一〇、〇〇〇円とする旨囘答したが、組合はこれを不満とし賃金問題に関して団体交渉を重ねている中、課長以上に対しては給与規定外に特別の手当が支給されていることを知るに至つて、従業員に対する賃金の考慮について会社に誠意がないとし、三月二九日闘争対策委員会を設置し、同月三一日には組合大会を開いて実力行使を含む闘争を展開する旨決議するとともに、その後断続的に残業拒否二四時間スト、怠業或いはデモを敢行して事態を有利に解決しようと図つていたところ、四月一三日会社より一〇、三〇〇円ベースに引上げる旨の囘答を得たが、部課長手当の点については明確な囘答を得られなかつたのでこれを不満として右の会社案をも拒否したこと及び、同月二六日会社は組合に対し従来の部課長手当をとりやめ、改めて役付手当として給与規定にいれる旨明言するとともに、四月中に争議が妥結しないときは前記四月一三日の会社の提案を撤囘する旨通告したので、組合は、四月も余日がないので同日午後三時三〇分から会社と団体交渉をはじめ、翌二七日午前八時すぎに至り二八日午前一〇時に会社の囘答を得ることとして、二六、七日にかけて行はれた交渉を閉じ、同日組合員に職場において待機すべきことを指令し、午後組合大会を開いて一齊に職場を抛棄させたことが一応認められる。被申請人は、二六、七日の団体交渉は、会社幹部を軟禁して行はれたと主張するけれども本件においては未だその充分な疎明がない。もとより労働者が団体交渉に名をかりて暴力をもつて使用者を拘束することは許されないところであるが、団体交渉は労使双方にとつて極めて重大なものであるから、通常の勤務時間を超えて続けられ遂に徹宵するに至つたとしてもその一事のみによつては、直ちに会社幹部の身体の自由が不当に拘束されたものとは断じ得ない。また、被申請人は組合は過大な要求を固執して譲らず、怠業罷業を繰返して会社幹部の業務指揮権を排除したのは服務規定上懲戒解雇事由に該当すると主張するが、たとえ客觀的にその経済的要求が実現不可能であるとしても、労働者の経済的地位の向上を目的とするに限り、正当な争議目的であり、それは結局団体交渉の段階において合理的な妥協点を求めているものと解すべきであるから、他に不当な目的を有することが疎明されていない以上これを非難し得ないし、争議行為は業務の正当な運営を阻害することをその概念内容とするものであるから、これがため使用者の業務上の指揮が排除されるのは当然である。従つて、組合の争議行為が形式上服務規定の懲戒解雇事由に該当するとしても、正当な争議行為である以上、これを理由には解雇し得ないこと勿論である。
しかるところ、疎明資料を綜合すれば、会社は、前記のような組合の争議行為に対抗するため、一時工場を閉鎖することを決意し、二八日午前三時頃から、守衛をして工場の正門前とカード室前に工場閉鎖の告示を貼布し、組合事務所及び従業員食堂並にこれえの正門よりの通路と工場構内との間に荒繩をもつて繩張りをめぐらし立入禁止の旨を明示し、工場内の事務室、倉庫等には施錠をなすとともに、同日午前五時二〇分頃、守衛長伊藤幸平を通じて組合の執行委員真塩馬治に対し、工場閉鎖の通告書及び組合の要求を拒否する旨の囘答書を手交したところ、申請人らは、組合大会を開き、同日午前一〇時三〇分頃組合員を指揮して卒先繩張を破つて工場内に入つたことが認められる。以上の事実によれば、会社は一応完全な工場閉鎖を実施したのにかかわらず、申請人らがこれを侵したものと解すべきであるから申請人らの工場閉鎖を破つた所為は違法たるを免れない。申請人らは、二八日は、会社より団体交渉の囘答を得る日であり、四月分遅払給料の支給を受ける日であり、また通常作業をする日であるから、申請人らの所属は何ら不当でないと主張するが、前記の通り工場閉鎖がなされた以上、作業すべき日に該当しないのは勿論、団体交渉の囘答は同日朝すでに組合に到達しているのみならず、給料を受領するには自ら別途の手段があるのであつて、工場閉鎖を破る正当な理由となり得ないこと勿論である。また申請人らは、被申請人が工場を抛棄した旨主張するが、その採用できないこと前認定に照して明白である。もつとも、当時使用者側の所在が組合側に判然としなかつたことは疏明資料を通じて窺はれるが、これがため団体交渉ができなくなつたとすれば、地方労働委員会にその救済の申立をなす等法の秩序の下に正当に争議権を行使すべきこと当然である。
しからば、申請人らに対する解雇の実質的理由は、申請人らにおいて組合の幹部として正当な争議行為をなしたことに基くものであると解するよりは、むしろ前記違法な工場侵入を敢えてしたことに基くものと解されるから、右解雇は労働組合法第七条第一号に該当しない。
そこで、本件申請は、被保全権利の存在につき疏明がないものとして、これを棄却し、申請費用の負担について、民事訴訟法第八九条第九三条を適用して主文の通り決定する。
(裁判官 古川静夫 中島誠二 保津寛)